理事ご挨拶

實川  幹朗

  当会は法人としての歴史はまだ浅いですが、源流となる研究会「心楽の会」から数えれば二十年ほどになります。

 私はその間、ずっと会の活動に携わって参りました。

 心理学はこんにち、たいへん活動の範囲を広げております。

 教育、産業、行政、司法、そして株式市況にまで応用されていますが、その中心にあるのは臨床です。

 臨床心理学は医療の中で精神疾患の診断や治療に用いられますが、それだけでなく、広く人びとの心の健康、生き様の指針にも関わります。

 ただし心理学という学問は、十九世紀の近代西欧で誕生したものです。

   その時代と地域の価値観・世界観を色濃く映したもので、けっして簡単に「人類普遍の知恵」などと誇れるわけではなかった。

 こんにちもそれは変わりません。すなわち、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。また心の問題は、各個人の内面で完結せず、世の中全体の繋がりのうちに産まれます。

 すなわち、それぞれの「自己責任」を背負うばかりの事柄ではないはずです。

 わが国では公認心理師の制度ができ、国民一般に心理学の知見・力の及ぶことが、法律的にも定まりました。

 いま私たちは、心理学の性格と限界を心に留めつつ、己れの足許への振り返りを進めるべきと考えています。

 日本人が古くから積み重ねてきた心の知恵を、新しい時代の暮らしを支え、命を導く営みにどう繋げて行けるのか、皆さまとともに考える法人でありたいと念じております。

 

令和元年六月二十四日

酒 木  保

   心理学…殊に臨床心理学は、人々が生活の中で出会う多様な困難に際し、具体的な実践を通して、こころの安らぎと救済をもたらすことを使命としています。

 今日、多様な価値観が錯綜する社会への適応に、不安や困難を覚える人々が多くおられます。私たちは、加藤清先生が主宰された「心楽の会(こぐらのかい)」で培われた精神を引き継ぎ、現代という〈時代の病〉に真摯に向き合っていきたいと考えております。

 私たちの研究活動分野は広汎にわたり、海外の臨床家との交流も密に保っております。

 アメリカ心理学会(APA:American Psychological Association)年次大会において、日本の心理臨床を紹介する研究発表を多数重ねました。また、韓国の諸心理学会とも交流を持ち、講演者また研修講師として招聘を受けております。

 このような活動をはじめ、私たちは、臨床心理学の本場と見做される英語圏に限らず、東アジアの心理学会との交流を促進することにより、欧米文化に由来する心理療法に加え、東亜文化圏ならではの新しい心理療法の開発に尽力したいと考えております。

 これまでの活動の中でも、私にとって殊の外思い出深いものは、日本臨床心理学会第20期運営委員長を務めた2013年7月開催の、我が国の臨床系学会では初となる大連大学(中華人民共和国)における、日中共催の国際年次大会です。この大会では、日韓中をはじめ東アジア圏で30年余の調査研究実績を有する比較民俗学会の協力も得られ、前年の日中の国際情勢悪化の混乱にも関わらず、意義ある学術交流を果たすことができました。

 その後も私はアジア諸国との交流を保ち、中華人民共和国蘇州にて2年に1回行われる「国際表現心理療法学会」には毎回、ワークショップ講師として参加しています。

 心理学という学問それ自体が生活に密着した要素を持ち、各々の生活文化の影響を受けて確立されてきました。そうであるからこそ、欧米由来の心理学をアジア社会に適用するのではなく、これからは東アジア諸国間の学術交流を深めることで、東アジア独自の心理学・心理臨床方法論の再構築を目指すことを、大変重要なことと考えております。

 弊法人は一昨年度・昨年度に引き続き、今年度も公認心理師現任者講習会の指定を、国に申請しております。

 私たちには、心理臨床実践において国際水準でも最先端の知見と実質的に有効な方法論を統合した講義を行うことが可能です。

 心理検査を一例としても続々と新しい方式が導入されており、今日の心理学は人々の生活に密に貢献し得るものとして、これまで以上に広く注目を集めています。このような社会からの要請に応じ得る「公認心理師」の資質の涵養を促す、質の高い講習の実現に向け、卓越した講師陣を配し、受講者のみなさま方のご期待に添いたいと願っております。

 

令和二年七月八日

戸田  弘子

   こころの臨床は、故加藤清医師を中心とする研究会「心楽の会」の成員が、日本臨床心理学会と分かれて設立した法人です。わたくしは20年に渡り本会事務局、また法人設立時の監事を務めました。
 「心楽の会」の月例会では、精神科医療領域に限らず、各種療法家、人文科学・社会科学研究者、宗教家、学生をはじめ、こころに関心を持つ人なら誰でも歓迎しました。ロの字型の席で、研究発表者と参加者同士が気兼ねなく、思ったこと感じたことを自由に言葉にし、話題は豊潤にどこまでも広がりました。今思えば、当時まだ日本に紹介されていなかった「オープンダイアログ」が実現されていたのだと思います。
 わたくしは、「臨床」とは、Being(そこに在ること)なのだと思います。臨床家が〈そこ〉に在ることで〈場〉が自ずと設えられます。「面接構造」の目に見える部分は、定まった施設(面接室)や時計の針(流れる時間)ですが、そこには、見えない〈場〉が必ずあります。わたくしは〈場〉という器の中での〈つながり〉の醸成を促し、それを見守っていくことが、自らの役割なのだと思ってまいりました。
 現在の法人理事3名は、いずれも「心楽の会」発足時のメンバーです。〈場〉をコスモス(宇宙)と捉えるなら、極小から無限への広がりがあります。マクロの動態原理は、ヒンドウーの物語世界ではトリムルティで表されることがあります。つまり、創造・維持・破壊(...再生)です。わたくしたち3人にその役割を当てはめるなら、ヴィシュヌ(維持)役は酒木保先生であることに間違いありません。あと2人は...いかがなものでしょう??

 今期からとりあえず、わたくしが理事代表を務めさせていただいております。

 

令和二年七月一日

※こころの臨床の源流、研究会「心楽の会」の紹介冊子です。

 現在のこころの臨床につながる研究活動を多数紹介しておりま

 す。どうぞご覧ください。

ダウンロード
心楽の会 ~12年の軌跡~.pdf
PDFファイル 1.1 MB